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2010.12.27

2009.6.2 "sc journal" 掲載blog 49

ニュアンスを探しに...
私たち夫婦が好きな作家に山本容子さんという版画家がいる。
とても有名な作家なので、知っている方も多いのではないだろうか。
もちろん作品もすばらしいのだが、いつ見ても思わず「かっこいい」と感じてしまう女性であり、妻も同じ印象を持っているらしい。
以前、NHKのお昼の番組に山本容子さんが出演した事があった。話題が彼女がドローイングする際に愛用しているフランス製の「青色のペン」の事になり、その時の彼女の言葉が印象に残っている。(なにぶん大分前の話なので、不正確な部分あり。あしからず。)
日本でも普通の文房具屋さんに売っているような、一見何の変哲もないペンを見て、「こういったブルーのペンだったら日本にもあるんじゃないですか? なんでわざわざフランスから...」といったようなアナウンサーの問いかけに、「確かに、似たようなブルーはあるんですが、ちょっと違うんです。ブルーの感じが...」と、こんな感じのやりとりだったと記憶している。
この番組を見ていた私たちは、「そうそう、そうなんだよねー。」と思わず互いにうなずき合ったのを覚えている。
この「ブルーの感じ」。使っている本人も具体的な違いを言葉で説明する事のむずかしいこの「感じ」こそが、いわゆるニュアンスなのである。
そして、こういった「ニュアンス」は、技術的に作ったり、簡単に真似できるものではなく、例えば、その場所で、人や暮らしの中で、もっと大きくとらえるなら文化のなかで、時間をかけて培われてきた「空気」の中に存在しているのだと思う。だから、フランスに限らず、日本だって、アメリカだって、インドだって独特の「ニュアンス」を持っていて、その場所や文化独自のキャラクター形成に一役買っているのである。
ものづくり(のような)仕事にたずさわっていると、自分が表現しようとしているものの中に、どこか違う土地や文化の「ニュアンス」を取り入れたいと思う時が多々ある。そんな時は出来るだけ様々な資料を見て、「ロールプレイイング・ゲーム」のように、まるで自分がその場所にいるかのように「妄想」したりしてみるのだが、本当なら、その場所に行って、しばらくそこの「空気」を吸って、「ニュアンス」を体の中に取り入れてくるのが一番いい。 ...のは分かりきっている事だが、実際に実行するのはとてもむずかしいのである。
今日、そんな「一番いい」(と私が勝手に思っている)事を実践してる知人の女性から、私たち夫婦に一葉のポストカードが届いた。それもフランスから。
とてもうれしい、ニュアンス de France のお裾分けである。手描きのポストカードからは「空気感」がしっかりと伝わってくる。
偶然だが、つい先日、その知人が以前働いていたガーデニングのお店で私たちはバラの木を買って来て庭に植えたばかりだった。”スヴニール・ドゥ・ルイ・アマード”という名前の木立のフレンチローズで、色はピンク。とは言ってももちろん、いい感じにフレンチのピンク。
その知人がいつ日本に戻ってくるかは分からないが、もしバラの咲いている季節だったら、庭のフレンチローズを愛でながら、みやげ話でも聞かせてもらえるとうれしいと思う。そして彼女の中に取り込まれたフランスの「ニュアンス」をちょっとだけ分けてもらえたら... と今から期待しているのである。(うの)

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