2008.6.4 "sc journal" 掲載blog 12
視線の先にあったもの...
関東地方に梅雨入り宣言がされる前の日曜日、近くにある「群馬の森」までプチ・ピクニックに出掛けた。
レジャーシートと娘用にと前の日に炊いておいたカボチャ、ペットボトルに入れたお茶、そしてメインのランチは途中でパンを買って...。そうそう、車のトランクには三輪車。
鬱蒼とした森と広々とした芝生の広場で構成され、建築家 磯崎 新氏の代表的な作品のひとつと位置づけられる県立近代美術館のある県立公園「群馬の森」は、休日になるとたくさんの家族連れで賑わう、いわゆる「近くて気持ちいい」県民にとっての憩いの場所(もちろん県民に限らず)。春から夏にかけての緑はそれは美しく、実は、Studio Clipのアイテムを持ち込んで写真を撮らせてもらった事も数回...。
芝生の上に木陰を見つけ、シートを広げて、至極シンプルなパンをほおばる娘ごしに思い思いの時間を過ごす人達をボーッと観察するのはとても楽しい。休日のデイアウトやちょっと散歩に来た女性達や子供連れが持っているバッグや小物。強い陽射しを遮るためのハットや日傘など紫外線を避けるためのあらゆる方法、そしてあまりにも快適さを優先させすぎるがために何となくみんな似ている、ちょっと味気ないカジュアルな装い。そんな中で視線を引きつけられる「さりげなく気を使ったナチュラルな装い」の若々しいおかあさん。いろんな意味で微笑ましい情景をぶち破るように突然現れる、自転車進入禁止エリアに迷い込んでしまった、まさに「ツール・ド・フランスないでたち」のおじいちゃん達(ある意味最もトレンディー)。
そこには、それぞれの時間の過ごしかた、周辺環境への適応のしかた、家族やグループのかたちが存在する。意識してアンテナを張り、目を皿のようにして観察するより、ボーッと見ているほうがいろんな絵が目に入って来る。
簡単なランチを澄ませ芝生の木陰から鬱蒼とした森を通って帰路に付く。三輪車を押されるがままにまかせる娘が、ほんの数秒の間ハンドルから手を離し、上を向き目を細めていたその視線の先にあったのは、重なり合う木々の枝葉の間から見える陽の光。
まだ生まれて17ヵ月しか経っていない彼女の中にどんな感情が生まれたのか。まるで大人がするような、「あー、気持ちいいー。」というように目を細め、口角をわずかに上げ、微笑むような一瞬の表情。そして、彼女が見たであろうその風景をデジカメのファインダーごしに覗いた自分の中に悠然と広がった温かな感情。観察する事で具体的にヴィジュアル化出来るイメージとは違った、情操を揺さぶられるような、言葉で表現しようのないインスピレーション。
美術館で、街中でそして森で...、ここ最近インスパイアされてばかりの自分。表現に活かせるかは別として、肥やしにはなっていると信じるたい。(うの)